自然栽培米・有機栽培米専門店 Natural Farming

2023/07/05 12:35

今では当たり前となっている品種の育成は、かつては自然界での突然変異によってあらわれた、優れた個体を選抜するところから始まります。そして、稲の人工的な交配、つまり品種改良技術のはじまりは明治時代まで遡ります。
今回は、今更聞けない遺伝子組み換え技術についてご紹介します。

遺伝子組み換え作物とは?

遺伝子組み換え作物は、遺伝子組み換え技術を用いて遺伝的性質の改変が行われた作物のことです。英語では、genetically modified organism というので、「GM作物」「GMO」とも言われています。

自然界で起きる偶然の遺伝子の変化を利用するのとは異なり、人工的に遺伝子に変化を起こすものです。
とても簡単に言えば、遺伝子組み換え技術は、ほかの生物から役に立つ遺伝子を取り出して、その性質を持たせたい作物に組み込む技術になります。

これまで、育種目標として付加させたい機能を持った素材(品種)がない場合、どれだけ交配を繰り返してもできなかったことが、他の作物から付加させたい機能を持った素材を組み込むことで狙った機能を持たせることができるようになったということです。

例えば、普通の稲のDNAに害虫に強い他の植物の遺伝子を組み込むことで、害虫に強い稲をつくるといったことが可能です。
これにより、交配と選抜を繰り返す従来の育種方法に比べて開発スピードがアップしたり、虫による害が減り収穫量が増加する、農薬を散布する手間や時間といったコスト削減ができるというメリットがあるわけです。

しかし、自然には生まれない新しい性質の作物を生み出すことになるので、食品としての安全性や遺伝子組み換え作物を栽培した農地周辺へ与える影響などを慎重に確認する必要があります。そのため、実際には実用化まで長い時間がかかるケースがほとんどです。

ちなみに、日本では食品になる農産物での遺伝子組み換え作物の栽培はまだありません。食品以外では、青いバラおよび青いファレノプシス(コチョウラン)が栽培されています。

日本でもGM作物の研究は続いている

GM作物は日々研究が進んでいますが、商品化するにあたり、国の承認や審査を受けなければならないことになっています。

もっと詳しく知りたい方や積極的に意見を伝えたい方は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)の中で、国民からの意見も募集することが定められており、環境省のホームページから意見提出ができるようになっています。

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遺伝子組換え生物等の使用に当たっては、カルタヘナ法に基づき、生物多様性に影響を与えないかどうかを事前に評価することとなっています。具体的には、遺伝子組換え農作物のほ場での栽培など、環境中への拡散を防止せずに使用等(第一種使用等)をする場合、使用等をする者は、使用方法などに関する規程(第一種使用規程)を定め、これを主務大臣に申請し、事前に承認を受ける必要があります。

 なお、食品としての安全性(厚生労働省が担当)、飼料としての安全性(農林水産省が担当)に関しては、それぞれの法律に基づき科学的に評価を行っています。

出典:環境省「遺伝子組換えイネの第一種使用等に関する承認に先立っての意見募集について」
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過去の意見募集の例




遺伝子組み換え農産物の分類

遺伝子組み換え作物について、時代が進むにつれ、開発目標が少しずつ変化していきます。この開発目標の移り変わりを第一世代〜第三世代までに分類して紹介されることがあります。
※第三世代については、あくまで定説となります。

第一世代
開発目標:農業生産性に貢献する
具体的には、耐病性、耐虫性、除草剤耐性、環境ストレス(低温、乾燥、塩害)耐性を持つ作物を作り出す研究が盛んに行われたようです。

イネでは、カラシナの持つ「いもち病*」への耐病性遺伝子を組み込んだ「耐いもち病稲」の開発などが行われています。

*いもち病(稲熱病):イネに発生する主要な病気の1つ。古くから稲に発生する定型的な病気で大幅な減収と共に食味の低下を招く。

第二世代
開発目標:機能性の付与
具体的には、健康機能成分、ワクチン抗原、 診断用抗原、モノクローナル抗体*を持つ作物を作り出す研究が中心だったようです。

*モノクローナル抗体:体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物(抗原)から体を守るために「抗体」がつくられる。 抗原にあるたくさんの目印(抗原決定基)の中から1種類(モノ)の目印とだけ結合する抗体を、人工的にクローン(クローナル)増殖させたものをモノクローナル抗体という。

イネでは、「ゴールデンライス」が有名です。
発展途上国では、深刻なビタミンA不足問題があり、東南アジアやアフリカなどでは、年間約50万人の子供がビタミンA欠乏に起因した眼球乾燥症で失明し、さらにその半数が失明後1年以内に死亡していると推定されています。 そこで、遺伝子組み換え技術を用いた、β-カロチンを含むゴールデンライスの開発が進められました。
β-カロチンは、体内でビタミンAとなるため、主食であるコメからβ-カロチンを摂取できることにより、ゴールデンライスはビタミンA不足を解消する手段として期待されました。

2021年、遺伝子組み換え米「ゴールデンライス」の商業栽培がフィリピンで初めて認可され、話題になりましたが、環境への負荷や人体への影響を巡る議論が続いています。

第三世代
開発目標:環境修復、工業原材料の生産
具体的には、汚染物質の分解や除去に役立つ組換え作物の研究・開発や植物繊維・油脂・ワックスといった素材を工業用や医薬品・食品添加物などとして利用することが考えられています。

イネでは、土壌中の有害物質を吸収することで除去するといった環境修復機能を持たせた研究が行われています。
東京大学と石川県立大学が研究した「カドミウム高吸収イネ」は、イタイイタイ病の原因として知られ、人体への毒性が高いカドミウムを作物に吸収させることで農地の環境修復を行うものです。
汚染された農地で栽培された作物は、土壌中のカドミウムを吸収し蓄積。このような作物から作られた食品を食べると、カドミウムは人体に取り込まれて有害な影響を及ぼします。
「ファイトレメディエーション」とは、植物の力を利用して環境を綺麗にすることで、このイネは「カドミウム汚染土壌を効率的に浄化できるファイトレメディエーション用イネ」として注目を集めています。

まとめ

日本お米ばなし vol.21 生物学編「遺伝子組み換え作物とは?」
こたえ:遺伝子組み換え技術(ほかの生物から役に立つ遺伝子を取り出して、その性質を持たせたい作物に組み込む技術)を用いてつくられた作物のこと。

おわりに

あったらいいな、が実現される一方で、人間も自然の一部として生存しているからこそ本能的に拒絶反応が起こる部分がある遺伝子組み換え技術。
選択肢の一つとして研究開発を進めることは否定しないものの、まだわからないことが多いのに広く利用してしまうと後から大きな問題となることを繰り返してきたからこそ、実用化には慎重に時間をかけて進めてほしいと思います。

日本では、有機JAS認証の基準の一つとして「遺伝子組み換えを用いない」ことがルールとなっています。一方で、家畜飼料のほとんどが輸入した遺伝子組み換え作物でまかなわれていることは知らない人が多いです。
まだ影響がわからないものだから、「積極的に取り入れるのは避けたい」という選択肢もあってよいのではないかと考え、私たちは家畜由来の堆肥も不使用のお米のみを取り扱うお米屋さんを運営しています。

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