自然栽培米・有機栽培米専門店 Natural Farming

2023/07/11 13:06

日本お米ばなし vol.22 生物学編「ゲノム編集と遺伝子組み換えって違うの?」

前回の日本お米ばなしで、 vol.21 生物学編「遺伝子組み換え作物とは?」をご紹介しました。
今回は、21世紀に登場した新しい品種改良技術「ゲノム編集」について、遺伝子組み換えとの違いに触れながらご紹介します。

遺伝子組み換え作物とは?

遺伝子組み換え作物は、遺伝子組み換え技術を用いて遺伝的性質の改変が行われた作物のことです。英語では、genetically modified organism というので、「GM作物」「GMO」とも言われています。

自然界で起きる偶然の遺伝子の変化を利用するのとは異なり、人工的に遺伝子に変化を起こすものです。
簡単に言えば、遺伝子組み換え技術は、ほかの生物から役に立つ遺伝子を取り出して、その性質を持たせたい作物に組み込む技術になります。
もっとざっくり言えば、「別の生物の遺伝子を入れる」ということですね。

ちなみに、遺伝子組み換え作物は世界の29ヵ国で栽培され、世界中で取引されています。生産量は、トウモロコシ・ダイズ・ワタ・ナタネの4種類が多く、これらは家畜のえさや食品の材料として使用されています。世界で最も栽培面積が大きいのはアメリカで、日本はアメリカからこのような農産物も輸入しています。
日本では、独自の検査基準を作っており、食品としての安全性や生物多様性に影響を与えないと判断されたものだけが流通しています。


出典:バイテク情報普及会「世界での栽培状況」

ゲノム編集食品とは?

ゲノム編集食品とは、生物が持つゲノム(遺伝子情報のこと)の中の、特定の塩基配列(DNA配列)を「狙って変化させる」技術を使用して作られた食品のことです。
まず、ハサミの役目をする酵素が、DNAの特定の場所を狙って切ります。切れたDNAは、生物がもともと持っている、DNAを直す仕組みで修復されますが、その過程で塩基配列に変化が起こります。
このように、偶然起こる遺伝子の変化を待つのではなく、狙った遺伝子だけをピンポイントで変化させる技術です。最近では、DNAを「切らずに書き換える」ゲノム編集技術も開発され、利用が進みつつあります。

遺伝子組み換え技術では、「別の生物の遺伝子を入れる」のに対し、ゲノム編集では、「元々その作物が持っている遺伝子の範囲内で操作する」という違いがあるわけです。

ゲノム編集食品に表示義務はない

ゲノム編集食品を販売する時は、遺伝子組み換え作物のようなカルタヘナ法や食品衛生法の対象とならないことから法的な規制はできません。これは、そもそも同様の変異が従来の育種でも生じることから虚偽の申告をしても見分ける方法が無い(取り締まることができない)ためです。
ただし、農林水産省や厚生労働省に必ず届出しなければならないルールになっていますが、これらの情報提供にも今のところ義務はないようです。そのため、表示の義務もありません。

公開されている届出は、今のところ「トマト・マダイ・トラフグ・トウモロコシ」がありました。(2023年5月26日時点)
厚生労働省 ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧

ゲノム編集食品の優位性と課題

<ゲノム編集食品のメリット>
・短い時間で新しい品種を作ることができる
・新しい性質を確実に加えることができる
・優れた栄養を持ち、健康に役立つような作物ができる
・地球温暖化などの気候変動に対応可能な作物ができる
・害虫に強い、収穫量が多いなど、生産性を向上する作物ができる

<ゲノム編集食品の課題>
・遺伝子組み換え食品と間違われやすい
・新しい食品なので食べた経験がなく不安
・ゲノム編集した結果、人間にとってマイナスとなる性質があらわれる可能性がゼロではない
・「ゲノム編集」の表示義務がないことが不安

ゲノム編集や遺伝子組み換えが注目される理由とは?

世界中がSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて動いている背景として、人類がこれまでになかったような数多くの課題に直面している事実があります。これらの新しい技術は、直面している課題の解決に寄与する可能性があるため注目されているのです。
次に、いくつか例をあげます。

1.世界の人口増加
皆さんもご存知の通り、世界の人口はこれまでに経験したことのないスピードで増加しています。1950年に約25億人だった人口は2050年には97億人に達すると予想されており、たった100年の間に4倍にも増える見込みとなっています。
世界の人口が増えると当然食料ももっと必要になります。2005〜2007年に世界で消費された穀物の量は年平均で20.7億トンだそうですが、2050年には1.5倍の30.1億トンになると見込まれています。

2.異常気象の増加
地球温暖化に伴い、世界の機構パターンが変化し、豪雨や干ばつなどが世界各地で多発しています。2022年は、北極圏であるノルウェーで6月に32.5度を記録したり、ヨーロッパでは過去500年で最悪の干ばつが起きたり、パキスタンでは豪雨による洪水で国土の3分の1が水没するといった未曾有の事態が世界各地で起こりました。
このような異常気象は、農業にも大きな影響を与えており、このまま世界の平均気温が上がれば、高温に弱い作物は収穫量が減少していくことが予想されます。

3.水や土地の不足
人口増加や産業の発展に伴って、水の取水量は増え続けており、人が使うために河川や湖、地下から水を汲み上げた量は、1900年には579立方メートルだったのに対し、100年後の2000年には5235立方メートルの約6.7倍となっています。
水は季節や地域によっても偏りがあり、将来的に水不足の危険がある国が増えていくことが予想されています。ユネスコの試算では、2030年には世界の47%の人が水不足になるとされています。
さらに、人口が増えるスピードに田畑を増やすスピードは追いついていないばかりか、砂漠化したり海面上昇によって農地が失われる地域も出てくると予想されています。

まとめ

日本お米ばなし vol.22 生物学編「ゲノム編集と遺伝子組み換えって違うの?」
こたえ:
遺伝子組み換え作物は、ほかの生物から役に立つ遺伝子を取り出して、その性質を持たせたい作物に組み込む技術を用いてつくられた作物のこと。
ゲノム編集食品は、元々その作物が持っている遺伝子の範囲内で狙った変化が起きるように操作してつくられた食品のこと。

おわりに

20世紀(1980年代)に遺伝子組み換え技術、21世紀(2012年)に実用可能なゲノム編集技術が開発されていますが、どちらもまだ新しい技術です。
ちなみに、日本の有機JAS規格では、「ゲノム編集技術を含む遺伝子操作、遺伝子組換えの使用を認めない」という方向で議論が進められているようです。(日本農林規格調査会議事録(令和2年8月21日開催))

世界中の食料不足や病気の治療のためなど活用の可能性が高い一方で、想像もつかないリスクを孕んでいる可能性もゼロではありません。
こういった状況から、今後はどんな食品なのかを自分で選択できることが大切になってくるのではないかと思います。

日本では、有機JAS認証の基準の一つとして「遺伝子組み換えを用いない」ことがルールとなっています。一方で、家畜飼料のほとんどが輸入した遺伝子組み換え作物でまかなわれていることは知らない人が多いです。
まだ影響がわからないものだから、「積極的に取り入れるのは避けたい」という選択肢もあってよいのではないかと考え、私たちは家畜由来の堆肥も不使用のお米のみを取り扱うお米屋さんを運営しています。


参考:
(1)どうなるの?未来の食べもの「最新のフードテックの世界に潜入!」②野菜・穀物/清水洋美著・汐文社 2023.3. 初版第1刷発行
(2)農林水産技術会議 ゲノム編集~新しい育種技術~

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