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2023/07/18 10:18

日本お米ばなし vol.23 産業編「コメ問題ってなに?」

これまでの日本お米ばなしで、お米を取り巻くさまざまな課題について紹介してきました。ここまでお読みくださった方々の中には、そもそも、日本のコメ問題ってどんなことがあるのでしょうか?
今回は、コメ問題について少しご紹介できればと思います。

日本の「コメ問題」

一般の方でも農家の方でも「コメ問題」と聞いて真っ先に浮かぶのは、下記ではないでしょうか。
・コメ余り
・米価下落
・担い手不足や高齢化
・田んぼ余り

これらは、生活様式の変化による需要と供給のアンバランスから生じた問題や少子高齢化や地域の過疎化など、日本という国が抱える様々な問題が複雑に絡み合っています。
実際には、米作りが日本の社会形成と密接であるからこそ生じる様々な問題が「コメ問題」という言葉の中に包含されています。つまり、上げ出すとキリがないくらい多種多少な問題を抱えている現状があります。

今回は、おそらく皆さんがなんとなく思い浮かぶであろうコメ問題として、先に取り上げた4つについて、"近年の動向"をご紹介します。

コメ余り問題

「コメ余り」とは、米の生産量が消費量を上回り、米が余ってしまうことを指します。日本では最近、人口減少や食生活の変化に伴う米離れなどが原因で、主食用米の需要量が1年当たり約10万t減少しています。
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出典:農業協同組合新聞

農水省が不定期で発刊している「米に関するマンスリーレポート」からも家庭での米の消費量が年々減少していることがわかります。


出典:米に関するマンスリーレポート(令和5年5月)

このため、生産者への打撃が懸念される一方で、消費者への影響も気になる問題です。
この、需要と供給のアンバランスに起因する米の生産過剰を解消するため、飼料米などの非主食用米の生産や大豆や野菜の転作などの対応が進められています。JA福井県が輸出専用米をシンガポールに輸出開始したニュースも近年のトピックです。

ただ、近年は異常気象が多発しており、冷夏や高温、少雨や干ばつなどによる不作が起こることも十分に考えられます。現在日本では、10年に一度の不作が2年続いても対処できる量として100万トンを目安に国が備蓄しています。これまでの米不足に悩まされてきた日本の歴史からみても、備えという意味で米はやや余るくらいで作り続けていくことも必要そうです。
消費量が減少しているとはいえ、このまま世界の平均気温が上がり続ければ世界の穀物生産量が減少するとの予測もあります。ただし、国内で生産可能な米という作物を不足なく作り続けるためには、使える田んぼを維持していくことが大切になっていきます。

米価下落問題

米の販売価格は長期的に低下傾向で推移しています。近年は16,000円を割り込むことが当たり前のようになっており、平成26年の在庫過剰による大暴落、令和に入ってからはコロナ禍での外食需要の減少による在庫の積み上がりによって米価は下落しています。

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出典:米をめぐる参考資料(農林水産省 令和5年5月)

様々なものの価格が上昇している昨今ですが、米は今後も取引価格が下落していくことが予測されており、農機具や燃料の価格が高騰するなか、米価に反映されないため米農家の経営は圧迫されています。

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出典:農業協同組合新聞

米の価格を安定させる方法としては、米の生産量を抑えるか米の消費量を増やすことが考えられます。国は、水田を活用して、麦、大豆、飼料作物、WCS用稲(発酵粗飼料用稲)、加工用米、飼料用米、米粉用米を生産する農業者を支援する政策を打ち出したり、作物の転換面積を拡大すれば助成金が支払われる制度などをつくって対応しています。

担い手不足や高齢化問題

少し話がそれますが、皆さんは米農家にどんなイメージを持ちますか?
実は、米農家の平均年齢は67歳、最も多い年齢階層は70歳以上となっています。

全国新規就農相談センターが実施した「新規就農者の就農実態に関する調査結果 -令和3年度-」によると、新規就農者の販売金額が最も大きい作目、つまり、何の作目を主軸として新規参入しているのかという調査結果があります。それによると、露地野菜(33.0%)、施設野菜(31.6%)、果樹(15.8%)、「水稲等」(7.0%)、「花き・花木」(3.1%)、その他の耕種作目(2.3%)、その他の畜産(2.8%)、 酪農(2.0%)となっています。割合が高い順で、露地野菜、施設野菜、果樹の3つの作目で 80.5%と大きな割合を占めていることがわかります。
米は7%と少ない結果になり、高齢化が進む中でとくに若手の参入が少ないことが見えてきます。これには、米は国内で自給できているほどに足りているし(競争が激しい)、面積あたりの所得が低いこともあり、これから農業でしっかり稼いでいこうとする若手にとって、参入ハードルが高いということも一つの要因といえます。

面積あたりの所得が低いということは、ある程度大きな面積で経営しなければ採算が取れないということになりますが、たくさんの農地を一気に入手することや使うこと自体、新規就農者には困難な場合も多いでしょう。農水省の2018年営農類型別経営統計によると、米の場合、10ha未満では農業による所得が総所得の56%となっており、農業以外での所得も大きな割合を占めています。
しかも、立地や作りたい作物にとって条件の良い農地を借りたり買ったりすることは、農業者であってもそう簡単にはいきません。新規就農者であればなおさらのことです。
その理由の一つには、農地のやりとりに社会的な関係(地域での信用や実績など)が関わってくることがあるためです。

そうすると、たくさんの農地を集めるのが大変なので、農地面積が小さくても所得の高い作物を検討せざるを得ないのは、とても自然なことだと思えます。
さらに、令和5年4月1日の農地法改正により、農地取得の下限面積が撤廃されたこともあり、より小さな面積で農業をはじめる新規就農者が増えることも考えられます。

ただし、60歳以上の新規就農者に限れば、4人に一人が米農家になっているそうで、これには親世代から引き継いだ田んぼを維持することや年金が多少なりともあること、機械があれば比較的労働力が少なく済むなどといった理由があるようです。

また、農業経済学者の小川 真如氏の著書「日本のコメ問題」のなかで、「米の自給率が100%の日本では、担い手不足や高齢化によってコメが足りずに困っているわけではないため、『コメ問題』というよりも田んぼを使う人が少なくて困っている『田んぼや農地の問題』だ。」といった内容があり、農業にまつわる問題を混ぜこぜにせず、きちんと構造化して考える必要性を再認識させられます。とても良い本なので、下記にリンクをつけておきます。

田んぼ余り問題

先のとおり、田んぼ余り問題は「コメ問題」というより「田んぼや農地の問題」にはなりますが、田んぼ余りは何が問題なのでしょうか。
これは、本当に様々な事情が絡み合うので、今回はほんの一部だけ。

「耕作放棄地が増えている」という話を耳にしたこともあるかと思いますが、耕地面積の減少とともに耕作放棄地の面積は年々増加し、平成27年には42万3千haとなっています。これは、およそ滋賀県の面積程度です。

ちなみに、耕作放棄地とは5年に一度調査が行われる「農林業センサス」で定義されている 用語で、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地」のことを言います。
似たような言葉で「荒廃農地」というものがありますが、「現に耕作されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっ ている農地」と定義されます。

この「荒廃農地」は、令和3年で26万haとなっており、そのうち16.9万haは再生利用が困難と見込まれる荒廃農地に分類されています。再生利用が困難な理由として、すでに森林のような状態で「抜根、整地、区画整理、客土等」を行っても再生が困難な状態まで荒廃してしまった農地などがあげられます。抜根、整地、区画整理、客土等にはコストがかかるだけでなく、きちんとした業者選定をしなければ、運が悪ければ農業に適さない土が運び込まれてしまったり、重機の重さで土が必要以上に硬くなってしまうなど、知識が乏しいことによる失敗事例もよく見られます。
新規就農を希望する方で「農地なんていくらでも余っている」とおっしゃる方が時々みえますが、余っている農地のすべてが容易に利用できるというわけではないのです。

荒廃農地の発生原因の調査結果から、田んぼ余りの原因を垣間見ることができそうです。
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出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策」令和5年3月

①農地へのアクセスが悪かったり、1枚の田んぼが小さいため効率が悪かったりするほか、②所有者の高齢化や後継者がいないため、③シカやイノシシなどの鳥獣による被害も原因としてあげられます。

さらに、農業者の減少に伴って、1経営体が管理する田んぼの面積が増えているため、地域の担い手となる米農家も栽培面積を拡大する際にはより使い勝手の良い田んぼの方がありがたいのです。
それでも、地域の維持発展のため、なんとかして担い手のいなくなった農地を使っていこうとする気概ある農業者がなんとか頑張っている地域もあり、お話を聞くたびに感動します。

こうして余った田んぼはご想像の通り、中山間地域に多く、米作りの機械化が進み技術水準が高まるにつれ、生産性の格差がそのまま田んぼの継承にも如実にあらわれてきました。
さらには、先に米価下落のところでお話した作物転換を行う前提で、そこそこ立地もよく、余っている田んぼで畑作をしたいとしても、湿田で畑作には向かなかった場合には、田んぼが使われないということもあります。
こうした本当は畑作転換が難しい田んぼを新規就農者の方があてがわれて苦労している事例も珍しくはありません。

おわりに

日本人の主食である「米」を取り巻く問題は数えきれないほどあり、これだけでも米農家とはなかなかハードな事業環境にあると気づくかと思います。すべての背景をお話するにはあまりにも広範すぎるので、かなり省いていますが、まずは関心を持っていただけたらと思います。
そして、これは問題のほんの一部。産業だけでなく社会全体が関わる問題として、私たち米屋にできることを考え続けていきます。



参考:
(1)日本のコメ問題 -5つの転換点と迫りくる最大の危機-/小川 真如著・中公新書 2022.6.25 発行
(2)農林水産省「農地の売買・貸借・相続に関する制度について」 https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/wakariyasu.html

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