自然栽培米・有機栽培米専門店 Natural Farming

2025/07/24 10:47

日本お米ばなし vol.63「田んぼとともに生きるシオカラトンボ」

田んぼといえば、秋の赤とんぼを思い浮かべる方も多いかと思います。
今回は、田んぼでシオカラトンボに出会ったので、そのお話をコラムにしました。

実は当店の店主は、大学時代の研究で「田んぼにすむヤゴ(トンボの幼虫)」の抜け殻をせっせと数えていた経験があります。
毎週のように田んぼへ足を運び、稲の茎に残る小さな命の痕跡を見つけては、地道に記録していきました。数を重ねるごとに、田んぼの環境がどれほど命に満ちているかを肌で感じていました。

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水田脇の枯れ草にとまるシオカラトンボ

シオカラトンボの暮らしと田んぼ

シオカラトンボは春から秋にかけて見られる、日本ではとても身近なトンボです。雄は青白く、雌は黄褐色で、見た目にもはっきりと違いがあります。
ちなみに、若い雄は黄色に小さな黒い斑紋が散在するので、俗にムギワラトンボと呼ばれています。

彼らは成虫になるまで、田んぼの水の中でヤゴとして過ごします。水中の草の陰や泥の中に身をひそめ、何ヶ月もかけて成長していくのです。やがて羽化の時を迎えると、稲の茎や草の先に登り、空へと飛び立ちます。なので、ヤゴの抜け殻を数えるときは、水中ではなく稲の茎に目を凝らして探していきます。

つまり、シオカラトンボが元気に飛んでいる田んぼは、その水の中にもしっかりと命が宿っているという証拠なのです。

名前の由来

このトンボの名前の由来は、塩をふりかけたように白っぽい粉をまとったように見える雄の体色から来ています。雄は鮮やかな青みがかった色合いをしている一方、雌はくすんだ黄色や茶褐色をしており、まったく違う姿をしています。この違いを知ってからは、空を飛ぶ姿を見つけるたびに、思わず目を凝らしてしまいます。
ちなみに「ヤゴ」の語源は、「ヤンマ(大きなトンボ)」の子どもを意味する「ヤンゴ」が転じたとされています。

稲作と生きものの共生

田んぼは、お米を育てるだけの場所ではありません。無数の生きものたちが暮らし、命をつないでいく大切な場所でもあります。田植えのころにはカエルの声がにぎやかになり、夏になるとトンボが空を飛び回ります。秋にはクモやバッタが稲の間を行き来し、収穫を迎えるころにはまた次の命の準備が始まっています。

他のトンボもそうですが、シオカラトンボは成虫・幼虫ともに肉食で、小型の昆虫をよく食べます。ハエや蚊、稲の害虫であるウンカなどを捕食するため、田んぼの益虫として知られています。成虫は、空を飛びながら虫を見つけると素早く飛びつき、脚をカゴのように使って捕まえて食べます。

環境とトンボの関係

しかし、近年では農薬の使用や圃場整備などによって、水辺の環境が単純化され、こうしたトンボたちのすみかが減ってきています。とくに育苗箱に使われる殺虫剤フィプロニルは、田んぼに流れ出ることでヤゴの摂食行動を妨げ、羽化できなくなる例も報告されています。

実際、有機栽培や自然栽培の田んぼで生産者から話を伺うと、農薬を控えた栽培方法を実践してからとんぼが戻ってきたというお話も伺います。
トンボは田んぼの生態系の健康を示す「バロメーター」としても注目されています。

農薬を抑えた田んぼづくりは、簡単なことではありません。しかし、生きものと共生する田んぼを目指すことは、環境と向き合いながら、未来へ命をつなぐ農業のあり方を考える一歩でもあります。

田んぼに息づく生きものを見つけることは、自然とのつながりを体感する入り口です。お米づくりの現場には、たくさんのドラマと命の営みがあります。ぜひ、田植えや稲刈り体験などに参加して、田んぼとそこにすむ生きものに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

さいごに

田んぼでシオカラトンボを見つけたことから、今回はシオカラトンボのお話から、トンボと環境のお話までさせていただきました。
「オーガニックって、意味あるの?」と言われることもあるのですが、有機栽培や自然栽培でお米を作る農家さんは、地域の環境づくりや未来へ資源を繋ぐことを本気で考えて実践しています。
そのことは否定しないでほしいから、私たちのような米屋も一緒になって伝えていけたらと思っています。


参考資料
環境省|フィプロニル等の水生生物への影響に関する評価
https://www.env.go.jp/content/900540393.pdf
PLoS ONE|ヤゴへのフィプロニル曝露実験(2018)
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0200299
近畿大学|温暖化と農薬の相互作用に関する模擬水田実験(2023)
https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2023/11/040790.html
福井県農業試験場|育苗箱施用剤による羽化阻害の報告
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/noushi/kikaku/hukyu_d/fil/h29_07_shidou.pdf
国立環境研究所|水田農薬の生態系への影響調査
https://www.nies.go.jp/subjects/2019/25005_fy2019.html

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